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未知倶楽部コラム

消費者とは

2007年02月20日

先日、地域ブランドをテーマとしたあるセミナーを聴講し、地域ブランド作りに携わっていらっしゃる方々によるパネルディスカッションを聴く機会がありました。

パネリストの方々はみなさん元気がありましたし、そして地域事業に真剣に取り組まれていることを感じました。ところが、どうも途中でしっくりと来ない‘何か’が心の中でもやもやしてゆく自分を感じ始めました。‘何かがおかしい’と感ずると私は落ち着かなくなるのです。自問自答しながらその‘もやもや’原因を冷静に追究し始めました。このディスカッションが続いている一時間半の間、パネリストの言葉を聞きながら、脳の別の箇所を使って執拗に原因を追いかけました。ディスカッション終了とともに、全体の話で気になること、つまり‘もやもや’の原因が、パネリストからの以下の発言にあったことが判明しました。

  • 『特産品が美味しいか美味しくないかは消費者が判断すればよい。私(某パネリスト)はそれを消費者に判断させる仲介人に過ぎない。』

  • 『地域の特産品は地域の人が一生懸命作っているがパッケージ、ロゴが良くないので(見た目がよくない)ので売れない。』

    そこでこれらの発言に対する問題提起です。

    その一。
    果たして消費者、それも全ての消費者が、美味しいか美味しくないかを正確に識別、判断する味覚を本当に持っているのか?

    これに関する私の見解です。全ての消費者は本当に美味しいものを食べているとは限らない、むしろ年々美味しいものとそうでないものとを識別する味覚が劣ってきているのではなでしょうか。かつては、家庭で一から料理をした、つまり自らの手で食材を調理をしていました。家庭で料理が出来たということです。新鮮な魚とは何か、新鮮な野菜とは何か、当然知っていました。そして代々伝わった細かな味付けやレシピが家庭に根付いていました。こつこつとしたプロセスを大事にして作った料理は間違いなく美味しいです。しかるに今は?  料理がまともに出来ない親が増えたと聞きます。「中食」という言葉が流行しているとおり、デパ地下やスーパーのお惣菜、果ては冷凍食品やコンビニ弁当で家庭の食卓が済まされてしまいます。こうした食品の製造販売に関わっている人からは怒られてしまうかもしれないですが、やはりそれらの商品の味は、昔の“おふくろの料理”が持っていた手づくりの味わいとは異なるものであると思います。

    これだけ食文化が多様化している社会において、その中でどっぷり浸かっている消費者は、本当に美味しい味とは何かを判断する力や判断基準を失いつつあるのではないでしょうか。

    その二。
    果たしてパッケージとかロゴさえよければ売れるのか?

    そのようなケースがあることは認めます。私自身もパッケージで商品を選んでしまうことがあります。でもパッケージが良いからと言って、味が気に入らなかったら二度と買わないというのが私の習性であり、多くの消費者は多かれ少なかれそうなのではないでしょうか。むしろ大切なことは、パッケージさえ良くすれば販売して良いのかという問題です。食に関わる人は、先ずは味が良いかどうか、これを追求すべきだと思います。食の安全・安心が叫ばれる昨今ですが、美味しいということを追及すれば大体のところそれもクリア出来ます。ごまかしの味を追い求めるが故に安全・安心とは異なる行為がなされるのです。パッケージやデザインといった見かけは、あくまでもその味というものをイメージして作り上げるものです。主役は味であり、次に見かけです。

    地域を訪れるとよく地域ブランド作りで盛り上がっている風景に出会います。あくまで私の見解に過ぎない、と前置きしつつも、地域ブランドに関して2点述べさせてください。

  • 本当に良い商品、美味しいものというのは時として一般消費者を突き放す位の迫力と自信が無ければいけない。都会の大勢の消費者(マス・マーケット)に媚びないで欲しい。

  • 食は美味しい味を追及するものである。見かけは味の次であり、見掛け倒しは長続きはしない。

    “都会人にはこの味が分かるものか”  ……地域の人には、時としてその位の気迫で挑んで頂きたいと思っております。過去のコラム「食についての雑感」でも触れたとおり、地域の人たちが本当に美味しいと思うのであれば、異なる食文化の人たちの味覚に安易合わせるべきではありません。それは真の意味の‘もてなしの心’とは異なるからです。名門の味が一般の人に受け入れられる前にほんの一握りの味の分かる‘通’の人に受け入れられ、そしてその人たちによって守られてきた例が多いのと同様です。

    また、本当に美味しいものは、都会ではなく地域にあります。これは日本だけでなく世界的な真実だということも申し添えたいと思います。地域ブランドマーケティングの本質は、愚直なまでに美味しい味とその品質を追求する姿勢を評価し支援して行くことであって、すぐ売れるようにするためのものでないと考えております。食の情報に関してマスメディアの世界が揺れている今日この頃、‘万人への分かりやすさ’とは一線を画した世界が地域には必要だと信じております。
  • 執筆者

    未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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