HOME > 道の駅で見つけた宝物 >イトリキカレー/ 道の駅かつやま(山梨県南都留郡)

道の駅で見つけた宝物

Vol.5      イトリキカレー/ 道の駅かつやま(山梨県南都留郡)

『イトリキカレー』のパッケージ
『イトリキカレー』のパッケージ

道の駅かつやま
道の駅かつやま

道の駅かつやまは、富士五湖の一つ、河口湖のほとりにたたずむ小さな道の駅だ。さすが観光地の道の駅で、外観も抑制が利いていて周囲の風景ととけ込んでいる。目の前は道路を挟んで芝生の公園が波打ち際まで続いていて、ここなら家族連れでもカップルでも気持ちよく休日の一日が過ごせるであろう。すばらしい立地である。
かつやまの店内は外観同様小振りで可愛らしいが、商品は地元重視の個性的なものが多く、これでこそ道の駅と嬉しくなる。その個性的な中でも一段と目を引いたのが、この『イトリキカレー』だった。
道の駅ではよく見かけるいわゆるご当地カレーのレトルトパックのようだが、ご当地カレーと言えば、たいてい一目で分かる地元の名産品や観光名所の写真がパッケージを飾っていたりするのに対し、このカレーはいかにもカレーな、くすんだ黄色地に変なイラストと手書きの文字というデザイン。とはいえ変わったものを作ってやろう的な素人臭さも気負いも無く、箱裏一面の商品説明も手書き文字とイラストなのにやたらとバランスがいい。おっ、できるなと説明書きを読んでみれば、どうやらこのカレーは地元富士吉田市にある『糸力』という居酒屋さんが出しているカレーを商品化したものらしい。フムフムとうなずきながら読み進めると文章の最後に『糸井重里』とある。つまりこの商品は、糸井氏が『糸力』で食べて感激したカレーのレトルトパックなのである。
 やっぱりうまいなー、と感心してしまった。この時点ではまだ食べていないので、もちろん味ではなくマーケティング戦略の話。筆者は糸井氏のファンでもなんでもないが、こういう商品を見てしまうと、糸井氏のデザイン力というか構成力には脱帽せざるを得ない。さすが広告の世界で長年トップを走ってきただけのことはあるのだ。
 今という時代において、こうしたパッケージも含めたマーケティングで要求されるのは、売る側の商品を見極めるセンスであろう。諸々の背景を含めた商品のストーリーを深く読み込み、どこにその商品の力があるのかを見極めて販売戦略を立てる。こうした読解力に裏打ちされたセンスこそが商品化には要求されるということだ。この『イトリキカレー』のパッケージを見ただけで、糸井氏がそうした能力において、抜群のセンスを持っているということがよくわかる。多分糸井氏は、片田舎の居酒屋でこのカレーを食べた瞬間に、それが全国区で売れると確信し、次の瞬間には販売戦略が立っていたのであろう。ではこの『イトリキカレー』のどこが他のご当地カレーと違うのか。それは一言でいえば『片田舎の居酒屋』のカレーということだ。  筆者は現代、特にバブル崩壊後の日本で最も重要なマーケティングの要素は、地域性と考えている。だからこそ道の駅がこれからの日本において重要なビジネス拠点になると信じているのだが、ローカルというだけでは実は足りていない。地域商品のマーケティングにおいては、地域性だけではなくそれを裏打ちしてくれる『証人』が必要なのである。
 地域性のある商品が売れる(売れた?)のは、マスプロダクトに飽き飽きした現代人が、地域性商品が持っている『私がまだ知らない高い品質』を期待するからだ。だからこそ都市住民が地方の産直に殺到し、離れ島のご当地カレーが売れたりする。しかしこれだけ地域情報がメディアで取り上げられるようになると、通り一遍の『地域性』だけでは顧客は目もくれない。そこで必要となるのが『証人』なのである。
 『イトリキカレー』はただの富士吉田市特産のカレーなのではない。富士吉田市にある『糸力』という居酒屋さんが、客に出しているカレーというところがポイントなのだ。ここには富士吉田市という地域性だけでなく、その品質を雄弁に裏打ちしてくれる居酒屋の主人とお客という『証人』がはっきりと見える。
 もちろんここに至るには、このカレーが強烈な個性と高い品質を持っていることを忘れてはならない。その味に感動したからこそ、糸井氏が販売に手を貸したので、こうした商品が戦略だけでうまくいくことはあり得ない。個性と品質があってこそのマーケティングであることはいうまでもないだろう。『イトリキカレー』はその高い商品力を、時代を読んだ的確なマーケティングで商品化した好例と言えよう。
 ちなみにこのカレーの発売は1997年で、既に巷では超有名商品であるらしい。お恥ずかしいことに筆者は全く知りませんでした。えらそうなことを書き連ねる割には、不勉強きわまりなく、その点はなにとぞご容赦ください。
 最後にこのレトルトカレーの味、ココナツ、ビーフ、インドの3種類がありますが、本当に強烈です。ぜひ食べてみてください。道の駅かつやまでは、会場のレストランでオリジナルイトリキカレー(レトルトとはさらに別物らしい)も味わえます。こうした連携も実にすばらしい。

ページTOP