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道の駅ローズマリー公園(千葉県南房総市白子1501) ホームページ

シェイクスピアを徹底的に追及したテーマパーク型道の駅

シェイクスピアを題材にテーマパークを設立

広大な敷地には、中世イギリス建築と庭園が再現されている。
広大な敷地には、中世イギリス建築と庭園が再現されている。

 千葉県南房総市には、市町村合併に伴って7つの道の駅が存在する。道の駅「ローズマリー公園」はそのうちの一つで、合併前の旧丸山町に位置しているが、 そのおもむきは、他の道の駅とはかなり違う。多分ここが道の駅だとは知らずに訪れる人もかなりいるのではないだろうか。
 房総フラワーラインを千倉から北上、県道297号線に入り2キロほど行った横道を入ると、辺りは木々がうっそうと生い茂り、所々にヨーロッパ風の建物が点在する全く日本的でない風景が広がる。この一帯が道の駅『ローズマリー公園』で、ここはイギリスの劇作家シェイクスピアを題材としたテーマパークを中心に、イギリスの雰囲気を徹底的に追求した“変り種"道の駅なのである。
 なぜ千葉の片田舎がイギリスでシェイクスピアなの? という疑問はまずはさておき、この道の駅がこうした形になったきっかけは、昭和初期からこの町で灌漑用に盛んに使われていた風車にある。丸山町では昭和10年頃から風車が田畑の灌漑用に積極的に取り入れられ、多い時期には100基以上の風車が町内で回っていたらしい。当時の鉄道の車窓からは、田園の中に風車というまるでヨーロッパのような景色が見られたという。
 この風車の異国ムードを町おこしに活用しようと、1988年に当時の竹下内閣が拠出した『ふるさと創生資金』を利用して『風車とローズマリーの里づくり』事業が実施された。新たに25基の風車を町内に設置し、また新しい街のシンボルとしてハーブの一種であるローズマリーの活用が提唱され、同時にローズマリーは町の花にも指定された。その後1996年にこの『ローズマリー公園』がオープンしたのだが、その際に町のシンボルである風車とローズマリーとともにテーマパークの大きなテーマに選ばれたのがシェイクスピアだった。当時の町長が教育者だったこともあり、ヨーロッパ的なものをテーマに選ぶのであれば、町民の学習に役に立つものということでシェイクスピアが選ばれたらしい。このあたりの経緯は補助金がらみの事業にありがちな話で、ともするとアイデアだけが先行し、実質的な運営が伴わずあえなく閉鎖というのもよく聞くケースだ。しかし『ローズマリー公園』は、10年以上経つ今も、立派にテーマパーク型道の駅として多くの訪問者を集めている。

中途半端でない、徹底した作り込みと運営が“偽物くささ"を跳ね返す。

ニュープレイス2階の展示室。監修は日本シェイクスピア協会元会長・高橋康也氏によるもの。
ニュープレイス2階の展示室。監修は日本シェイクスピア協会元会長・高橋康也氏によるもの。

 で、そんな経緯で選ばれたシェイクスピアである。
 『ローズマリー公園』のように、悪い言い方をすれば根拠の薄いコンセプトでテーマパークのような施設が運営されると、往々にして中途半端なプランニングが行われたり、スタッフの振る舞いが自信なさげであったりと、どうしても偽物くささが鼻につくものだ。しかしその点『ローズマリー公園』の中心となる「シェイクスピア・カントリー・パーク」は、こだわった作り込みと運営によって素晴らしい出来栄えに仕上がっている。道の駅内のここだけが有料施設となるが、ここは大人800円の入場料を払う価値が十分にある。詳細は『ローズマリー公園』のウェブサイト(これがまた良く出来ている!)を見ていただきたいが、ここでは幾つか見所を挙げておこう。
 まずパークの入口となるニュープレイスと呼ばれる建物の2階にある展示室。ここには、『ハムレット』『真夏の夜の夢』など名シーンが彫像で再現されており、またそのセリフが定期的にスピーカーから流れる。セリフに合わせてそのシーンの彫像にライトが当たり、視覚的にも飽きさせない。動かない彫像が余計、その芝居のシーンについて見る人の想像力をかきたてる。非常に上手な構成である。また30分に一度、とてもリアルなシェイクスピアの人形と、現代のシェイクスピア劇の名優(イギリス人…ビデオ出演)が語り合うという演出もある。その他のシェイクスピアとその演劇についての資料展示も、人形劇で見せたり、歴代のポスターが閲覧出来たりと、シェイクスピアに多少でも興味がある人間であれば、時間を忘れてしまいそうな場所だ。展示室の隣は1、2階吹き抜けの小劇場になっており、ここの内装も中世イギリス風で趣がある。ここまで凝るのであれば、ぜひ定期的にこの劇場でシェイクスピア劇を上演していただきたい。
 そして圧巻はバースプレイスという、イギリスに現存するシェイクスピアの生家を再現した展示館であろう。館内は当時のシェイクスピア家の生活が、やたらリアルな等身大の人形で表現されている。訪問当日は平日の午前中だった上、雨に祟られ館内には誰もいなかった。そうなるとこの人形たち、今にも動き出しそうで、背筋がぞっとするほどのリアルさ。そんなリアルな人形が、実寸の家の中で、まるで本当に暮らしているように、各部屋に様々なシチュエーションで「住んで」いる。初めての訪問だったので、部屋から部屋へ移動する度にそこにいるのが人形なのか人間なのか一瞬わからずギョッとしてしまった。ちょっとお化け屋敷チックでもあるが、これを見るだけでも入場料を払う価値は十分にあるだろう。
 イギリス式の庭園もよく管理されており、天気が良ければ(当日は雨天)気持ちよく散策出来そうだ。さらに物販も徹底的にイギリス、ヨーロッパを意識した品揃えで、シェイクスピア関係の書籍からアロマグッズ、イギリス王室キュー―ガーデン関連商品、さらにはミニカー(確かになんとなくイギリスっぽい)まで売っている。女性スタッフの衣装も、白シャツにフレアのロングスカートとクラシックなイギリス風。ここまで徹底してもらえれば、客側もしっかりとシェイクスピアというテーマに感情移入できるというものだ。

道の駅事業の柱となり得る地域情報発信

ローズマリー公園の風車『ウィンドミル』は、小麦の粉挽きに使われたイギリスの伝統的スタイル
ローズマリー公園の風車『ウィンドミル』は、小麦の粉挽きに使われたイギリスの伝統的スタイル

 今回取り上げた『ローズマリー公園』は、この地域の特長であった風車をヨーロッパ、イギリスにつなげたという意味では、道の駅の目的の一つである『地域情報の発信』をデフォルメした形で実践しているものとも考えられる。昨今、道の駅といえば産直のように思われがちであるが、道の駅事業が他業態との差別化を図りつつビジネスとして成功する大きな鍵は、実はこの『地域情報の発信』にあるのではないだろうか。産直も一種の『地域情報』ではあるが、物販ではない地域情報を発掘・編集して、魅力的な形で発信することができるのは、道の駅に与えられたテーマであり、また特権でもある。その地域情報発信を具体的な事業に落とし込んでいく際に、絞込みと作り込みをどれだけ徹底的に行えるかで成否は決まる。
 この『ローズマリー公園』は補助金である程度潤沢な予算をかけられたなど幸運な状況もあったと思われる。したがって一概に一般的な道の駅事業の参考にはならないかもしれない。しかし道の駅というビジネスモデルがどのように地域情報発信機能を事業化するかを考える上で、この道の駅『ローズマリー公園』の過剰にさえ思えるテーマへの取り組みは、他の道の駅にとっても大いに参考になるのではないだろうか。


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