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未知倶楽部コラム

第7回 道の駅価値創造セミナー

2009年12月3日、東京・東銀座にありますJJK会館にて「第7回道の駅価値創造セミナー」を開催しました。最近、富に道の駅が注目されておりますが、道の駅の正しい実態については一般の方々は知らない。マスコミも知らない。ましては管轄している市町村すら知らない。‘知らない’とは存在を知らないのではなく、道の駅が内包している価値、道の駅を活用した場合によって生み出される新たな価値、道の駅を繋いだ場合によって生み出される国家戦略的な価値について知らないということです。多くの心ある道の駅の駅長(支配人)は正に日常的に知らず知らずにその命題と戦っている訳ですが、その実相については誰も感じようとしないし、また道の駅の方々も日常的な忙しさに埋没してしまいこのような上位概念的な世界を整理して伝える術を持っておりません。7年近く道の駅を見つめてきた私としてはその実相を伝えることに関して大きな責務を負っていると感じ続けており、そういう思いを抱きながら今回の7回目のセミナーを準備し迎えることとしました。

上述の考えに従いまして、今回は従来までのセミナーとは違えて、より密接に議論できる「場」をセットアップしたいと思い、参加人数を制限させて頂きました。参加頂いたのは未知スタイル(機関誌)を購読されている道の駅、及び常日頃から未知倶楽部のアンケート調査に非常に熱心に回答して下さっている道の駅、つまり勝手ながら問題意識が高いと思われる道の駅の方(*結果的には、その仮説は的中し極めて質の高いレベルの道の駅の代表でした)を中心に声掛けをして、更に彼らの周りに地域事業に真面目に関心を寄せている企業の方を布陣して、双方同じ視点に立って真剣に討議をして頂くこととしました。

さて、今回のセミナーの構成です。第一部が「着地型観光の推進と道の駅の役割」、第二部が「農産物直売所の活性化を考える」です。民主党政権になり観光立国政策が強化されることが予想されますが、果たして既存の大手旅行代理店が今までのように観光業を牛耳り、彼らのビジネスモデルが普及されることに都合が良い、宿泊所と交通手段、それと観光メニューだけを提供し続けていてインバウンド観光(2015年に2000万人)の増大は図れるのか、地域を見つめる私は、そこへの問題意識を強烈に持っております。私は、東京のデスクでPCを前にして企画を作り、企画数、回転数、参加人数等の数だけをチェイス(追う)している旅行代理店には新しい観光、旅の姿を作る力はないと思います。これからの時代、つまり真の観光立国の時代は、コンテンツ溢れる地域を対象として地域の人たちが『主体的』に観光資源を発掘、企画して商品化する姿が主流となると信じております。一刻も早く、東京中心主義の観光ビジネスからの脱却を求めたいです。その為には地域のコンシェルジュである道の駅は大切な役割を演じます。その辺りを整理することが目的です。次に直売所です。道の駅には直売所がありますが、生産者組合との関係はまちまちで商品に本当に責任を持っている道の駅と単に場を提供しているだけの道の駅が並存しております。消費者は道の駅に対して安心、安全、新鮮な野菜を求めていることには違いがありませんが、それに対応する為には何をすべきか、この辺りを論じて頂きました。

また、進行形式です。従来のセミナーでは、先を見据えた道の駅のあるべき姿を未知倶楽部が提言し、それについて道の駅の皆さんに考えて頂く形式をとっておりましたが、今回は参加者の皆さんへ、自ら意見を出し、自らの力で提言をまとめていくことを求めました。提言内容の良さよりも、提言をまとめていく「プロセス」を大切にしたいと考えたからです。併せて、セミナーを受身的に聞いて何となく勉強になったという今までのやり方を排し、自らがセミナーを創り上げたという‘実感’こそが提言内容を現場へ着地させる最も効果的手法であると考えたからです。手法として新しい試みとして取り入れたのがグループディスカッションです。3つのグループに分かれた参加者が、一つの共通のテーマに対してグループごとに60分間話し合い、各グループの代表(道の駅の駅長)が提言を発表しました。

最期に、今回このような形式で皆様と密接に向き合い熱い議論ができましたのは、未知倶楽部が開設以来、道の駅のみなさんと共に道の駅のありかたを考え続け、成熟した関係になったからだと考えております。その様な関係性が構築出来たのは今回の様なセミナーに遠方より馳せ参じて下さった道の駅の方々、そして未知倶楽部活動を熱心に支持して下さる企業パートナーの皆様のお陰です。これからも一層こういう機会を増やして行き、道の駅そして地域の経済発展に資することを祈念しております。

それでは、セミナーの要約を報告します。

伊藤忠商事株式会社
未知倶楽部室
室長 賦勺 尚樹

第1部 観光と道の駅を考える

(1)講演「着地型観光の推進のために道の駅ができること」
東洋大学国際地域学部国際観光学科 准教授 島川 崇 氏
【観光ビジネスのあり方】
  • 観光地化はメリットもあるが、デメリットもあることを認識する必要がある。
  • 補助金に全面依存せず、商業的に成立する観光ビジネスを構築することが大切だ。
【着地型観光の可能性】
  • リピート観光客はブームで人が集まるような場所を好まない。
  • 地域に根差した着地型観光は、目の肥えたリピート観光客のニーズに合う。
【DMO(ディスティネーション・マネージメント・オーガイナイゼーション)の推奨】
  • 情報が豊富な時代ではあるが、土地の地域資源は個人で探し切れるものではない。
  • 着地型観光の中で、地域資源を発掘し、観光客に伝えていく組織=DMO(ディスティネーション・マネージメント・オーガナイゼーション)を提案したい。
  • DMOでは、地域資源を生かしたツアーなどを企画販売していく。道の駅がDMOの機能を果たしてはどうか。
  • 旅行業法で最も資金投資が少なく始められる第三種旅行業は、規制緩和により、自らが所在する市町村および隣接する市町村に限定された範囲で募集型企画旅行の造成・販売が可能になったので、地域事業者が参入しやすくなった。
【DMOだからできること】
  • 着地型観光では、地域に根差した組織でないと提供できない体験を用意するべきだ。
  • 紀南ツアーセンターというDMOでは、地域の職人(きこり、船大工など)を巻き込んだ体験ツアーを実施し人気を得ている。
  • 希少な体験を手引きしてくれる地域の人材探しは、大手の旅行代理店にはできない。
(2)未知倶楽部からの提言「道の駅から発信する地域の人々の魅力」
株式会社ブレアコンサルティング 取締役 黒田 浩介 氏
【道の駅「杉の湯川上」での感動体験】
  • 人口2000人程度の吉野郡川上村に旅をし、着地型観光のあるべき姿を見つけた。
  • 旅のスタートは、道の駅「杉の湯川上」。村営のホテルを併設している(客室26室)。
  • 駅長は、川上村の産業(林業)の歴史や現況を、興味深い語りで聞かせてくれた。
  • 駅長の紹介で訪れたこんにゃくづくりの工場では、生産現場を見学し、名物職人にこんにゃくづくりの苦労話から身の上話まで聞かせてもらい、感動した。
【地域とのつながりを道の駅がつくる】
  • 地元の人との出会い、触れ合いは、旅の最も贅沢な楽しみである。
  • 川上村での体験は、駅長の地域とのつながりが深かったからこそ実現した。
  • 地域の人々とのつながりの形成は、道の駅の強みとなる。
【未知倶楽部が考える道の駅】
  • 未知倶楽部が考える道の駅のコンセプトは、“ふるさととの出会いの場”。
  • 生まれ故郷にこだわらず、みんながつくる新しいふるさとが、個化社会には必要だ。
  • 未知倶楽部のホームページで、各地の名人・達人を紹介するコーナーをつくっているので、活用して欲しい。
(3)パネルディスカッション(グループディスカッション)
コーディネーター 株式会社日本総合研究所 金子 和夫 氏

「道の駅価値創造セミナー」初の試みとして、グループ方式によるディスカッションを実施しました。
テーマは、道の駅のリピート客を創るために「①どんな資源を活用するべきか」「②どのような手法で紹介すれば良いか」。
グループディスカッションの後は、3グループの各代表に議論の成果を発表していただきました。

【グループA】
ファシリテーター:(株)三雲企画事務所 代表取締役社長 三雲 浩嗣 氏
発表者:道の駅 上品の郷(宮城県) 駅長 太田 実 氏
  • ①どんな資源を活用するべきか
  • 地域資源は人が集まる場所で見つかる。
  • 地域に埋もれた資源は、よその地域の人が見つけてくれることが多い。
  • 自然や歴史、食など多岐にわたるが、それを作り、発展させてきた地域住民そのものが人を引き付ける資源となりうる。
  • ②どのような手法で紹介するべきか
  • 時間はかかるが、これと決めたターゲットにじわじわ浸透するアナログ方式(口コミなど)がよい。(デジタルからアナログへの回帰)
  • あれこれと手をつけるのではなく、まずはひとつを集中的に告知し、流れができたら次に資源へと移っていくのが良い。
  • 地域資源は人との会話の中に資源を見出すことが多いので、道の駅が人の集まる場になっていくことが必要である。
【グループB】
ファシリテーター:(株)コンパッソ 代表取締役社長 吉開 俊也 氏
発表者:道の駅 加子母(岐阜県) 駅長 安藤 直樹 氏
  • ①どんな資源を活用するべきか
  • 豊かな自然や歴史・文化があるにもかかわらず、活かしきれないことが多い。地元の人だけではなく、よそ者の視点で地域の資源を見直すことが必要。
  • 地域の住民と結びつきながら、自然の魅力を伝えるための工夫をするべき。
  • 地元の人は地元のわかりやすい資源は周知しているが、よそ者の視点でなければ見つけられない資源がある。道の駅はそれを知り活用すべき。
  • 地域の人材という点では、着地型観光に向いた魅力ある人材というのは、同時に地元にとって大事な人であるから、簡単に観光資源とすることには問題がある。
  • ②どのような手法で紹介するべきか
  • 地域と連携して広域観光のキャンペーンなどを行うことも事例の一つにある。
  • 道の駅が主体となり、モニターツアーやイベントを定期的に行う。(→それによって地域資源の掘り起こしや地域ファンの定着が積み上げられ、近い将来DMO/DMCによる着地型観光ビジネスへの着手に繋がる。)
【グループC】
ファシリテーター:(株)ブレアコンサルティング 取締役 黒田 浩介 氏
発表者:道の駅 きらり坂下(岐阜県) 駅長 三尾 弘成 氏
  • ①どんな資源を活用するべきか
  • 資源のひとつである地元農産物は、レシピなどを加え地元の食文化とともに提案することが大切である。
  • 祭りや風習そのものも大切な資源である。
  • 人間の本能に訴える資源(ex.ご利益のある神社)は、一過性のブームで終わらずファンがつく。
  • ②どのような手法で紹介するべきか
  • ひとつの道の駅だけでできることには限界があるので、道の駅同士の連携が必要だ。
    すべて自分だけでやろうとせずに補い合う関係が望ましい。
  • 地域の商店や施設と連携し発信していくことも必要だ。
  • 自治体が音頭を取り、道の駅が乗る方がやりやすい。
  • 道の駅同士の連合で、消費地に出向いてイベントをするのも良い。

第2部 農産物直売所の活性化を考える

(4)未知スタイル第5号報告「農産物直売所の現状と課題」
株式会社日本総合研究所 金子 和夫 氏

テーマに「消費者に支持される直売施設」を取り上げた「未知スタイル」最新号(第5号 2009年11月発行)の内容に沿ったお話がありました。

(5)パネルディスカッション

未知スタイル第5号の報告を受け、直売所の活性化に関して様々な意見が出されました。

【希少価値のある販売】
  • 農産物に頼った直売所は、生産者の高齢化にともない供給が減少する可能性がある。
  • 今から省労働で高単価な商品を生産して、販売できるようにしておくべきだ。
  • その土地ならではの希少な農産物もお客に喜ばれる。
  • 道の駅が生産者に作付けの指導をするとよい。生産の現場を指導するのも駅長の役割である。
【エコファーマーで安心・安全を訴求】
  • エコファーマー商品の消費者関心は高く、一般商品より売れ行きが良い。
  • エコファーマー商品を道の駅全体でアピールすれば、「この道の駅では安心・安全なものが買える」という証になる。
  • エコファーマー商品が売れると、エコファーマーの認定を取得していない農家もあせりを持ち、取得に関心を示す。
【一点徹底主義】
  • 「直売所甲子園」で優勝した「道の駅とよとみ」の品質管理の取り組みは参考になる。
  • 「とよとみ」では、とうもろこしについては、直売所が生産農家の畑をすべてチェックし出荷を厳しく選別した。その結果、「とよとみのとうもろこしは品質が高い」と有名になった。
  • とうもろこしで成果を得た次に、桃、じゃがいもへと品質管理徹底の取り組みを広げた。
  • 特定商品の評判を徹底的に高める取り組みによって、直売所全体のイメージが向上し、今では「とよとみの野菜は(全般に)品質が良い」と評判が高まり、繁盛している。
  • 第3セクター方式で立ち上がった道の駅だが、品質管理の取り組みには市の関与も大きかったようだ。取組への成果が出てくるにつれ、生産者の団結も強まっている。
【売り場の情報発信】
  • 野菜のソムリエがいる道の駅では、商品をおいしくいただく知恵を発信している。
  • POPも工夫しており、見ているだけで楽しい。
【加工品で商品供給を安定化】
  • 秋田ではこれからの季節には、野菜の収穫がなくなり、売り場の供給が減るが、収穫した野菜を漬物に加工しておくことで、商品供給の安定化を図っている。
【適正価格の確保】
  • 安心・安全の取り組み、売り場の情報発信など、零細な生産者に協力を求めても難しいことが多々ある。
  • 生産者の高齢化も問題であるが、後継者を育てるには、農業で儲かるような仕組みを作るしかない。
  • 儲かるようにするには、価格設定のあり方を考える必要がある。適正な価格が確保できれば、人材も投入できるようになる。
  • 価格を引き上げるには、ブランド化して付加価値をつけることが必要だ。
  • どこで売るかも重要で、道の駅では高く売れなくても、都内では高い値で売れる場所もある。
  • 価格は消費者ニーズを無視できないが、生産者が欲しい価格との妥協点を見出す必要がある。
【直売所の特色付け】
  • これからの時代は、直売所同士の競争が起こるかもしれない。その時には、特色のある直売所でないと生き残れなくなる。
  • 地元の消費だけで成り立つ道の駅であれば、地元の農産物を安く提供することに重点を置けばよいが、地元以外の来訪者が多い道の駅の場合、特色をつけて選ばれる道の駅にならなければいけない。
【ブランド化への仕掛け】
  • 「生産者の顔が見える」というのは重要で、POP等での情報発信に加え、生産者が道の駅でアピールすると良い。
  • さらには、消費者に生産現場を見せる着地型ツアーも効果がある。
  • また、商品のパッケージはブランド化に欠かせない。各自でバラバラに取り組むのではなく、生産者が束になってコンセプトのあるパッケージ企画に取り組むと良い。
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