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未知倶楽部コラム

小さな兆し

2007年01月22日

未知倶楽部は昨秋より、石川県庁からの依頼により、石川県能登地方にある3箇所の道の駅を対象として、資源発掘・マーケティング指導・経営改善指導等に携わっております。

延べ5回に亘る現地での作業により、いろいろな課題が見えて参りました。また、訪問するごとに変化が起こっていることも感じております。

私はどの地域を訪れても、必ず「地域主体主義」という言葉を唱えております。私たち外部の人間がどれだけ課題を整理し、それ対するソリューションを提示しても、そして外部の人を地域へ呼び入れる企画や、特産品の発掘・販路展開案を立案したとしても、所詮実行するのは地域の人たちです。

当然ですが、地域のことは地域の人が一番よくご存知です。私どもは、地域の人が“良い”“悪い”と思っているものを第三者の視座から捉え、それらが客観的に、あるいは都会的な感性からどう見えるのかを判断するだけです。

地域の良いものにはそれなりの迫力や説得性が無ければ域外の人には評価されません。

「どうぞ地域を回ってください。どうぞ地域産品を見て、食べてください。それを評価して--場合によっては評価はどうでもいいから--すぐに都会で紹介して売ってください、都会のお客さんをこの地域に連れてきてください……。」 このようなことを言われるだけでは、きっと失敗するでしょう。

人に紹介する前にまず、地域の方ご自身がそのモノなりコトを正確に知っているのでしょうか。そしてそれらを本当に愛しているのでしょうか。それ以前に、あなたの住んでいる地域そのものを本当に愛し、そして守ろうとしているんでしょうか。

我々は地域の方に“魂”を植え付けることはできません。もともとそのような魂が潜んでいる人の心に火を灯すこと、それしかできないのです。

さて、石川県能登地方での作業です。今回の対象となっているのは、能登にある11箇所の道の駅のうち「桜峠」「とぎ海街道」「ころ柿の里しか」の3箇所です。

私たちが訪れるたびに、3駅の代表の方それぞれから、道の駅の周辺をご案内いただき、産品もご紹介いただきました。そして長い時間を掛けて、上述の私の考えをお伝えするとともに、自分一人で道の駅を背負って立つのではなく3駅どうしで創意工夫、相互扶助、交流を進め、連合化してゆく必要性を訴えかけ、ご理解いただけるよう努めて参りました。

このたび、1月17日に再び能登を訪れました。その際、大きな感動に巡り合うことが出来ました。

ブルーベリー棚
「道の駅桜峠」のブルーベリー商品
これまでは理屈っぽいテーマで議論ばかりしていたのですが、今回は趣旨を少し変えて、各々の道の駅で販売している産品を持ち寄ってお互いに産品を紹介していただく時間を設けました。その際、単に紹介するだけでなく、どうして駅長さんがそれらの産品を推奨するのか、その点もきちんと発表していただくこととしたのです。 当然、その産品への地域の生産者の思い入れ、その産品の優れている点、そして今後その産品をどう育ててゆきたいのか、これらが大切なテーマとなります。


えび仕分け
「道の駅とぎ海街道」近くの港での甘エビ水揚げ
ブルーベリーのジャムやワイン。どうしてこの地ではブルーベリーを大切な産品だと考えているのか、そして他地域で生産しているものとどこが異なるのか。あるいは生きたままの甘エビを特殊な方法で包装して全国配送している甘エビパック。美味しさの解説だけでなく、どのような技術でこのようなことができるのか、当地の誰が開発してどのような人たちとの協力でビジネス化しているか。その他、興味深い商品説明をたくさん聞かせていただくことができました。

駅長さん自身が地域を代表する立場となって、地域に対する思いを体現化しようとしている、その迫力が感じられました。正直なところ、駅長さんには失礼ですが、最初にお会いした頃には駅長さんの自信を感じることができず、やや頼りなさを感じておりました。ところが今や自信を持って発表され、そして積極的に私たちを現場に連れ出して説明しようとなさる。甘エビを水揚げしている漁港と活きのよい甘エビをパックしている作業所。ころ柿を作っている作業所。ブルーベリーワインの工場。どこへ行っても、胸を張ってこれこそ地域の誇りだといわんばかりに力を込めて説明なさる。駅長さん自身が変わりつつあるのです。
柿畑
「道の駅ころ柿の里しか」近くの柿畑


私どもはこのウェブサイトやセミナー等で、道の駅どうしの交流の促進と連合化の必要性を訴えかけて参りました。しかし、何回くりかえし唱えるよりも、実際に駅長(道の駅の代表者)が膝を突き合わせて自由に話をする機会を設けることで、相互連携への気運が一気に高まります。

そのことは能登でも起きております。これは大きな変化です。そして同時に、この地域で今後起こるであろう大きな発展の小さな兆しとも言えましょう。

すぐに結論を出すことを私たちに求める方がいらっしゃいます。早くこの特産品を売ってみてくれ、あるいは早く観光地としての魅力を引き出し、お客を連れて来てみてくれ。

しかしそれは間違っています。私たちはマジシャンではありません。半年やそこらで結果を出そうとすることは危険です。そうではなく、地域の人がその地の何が良いのか、何を売りにしたいのかを見つめなおし、そして地域に対して自信と誇りを持つこと。そういう素晴らしいことの実現のために、半年という期間をじっくりと掛けるべきです。

地域には都会にない可能性が潜んでいます。その一方で、都会的なスピード感とは時間感覚が異なります。だからこそ、すぐの結果を求めることは、表層的な面だけで一刀両断することにつながります。そのような姿勢は危険なことなのです。

地域を尊重する姿勢こそが私どもの姿勢であり、この姿勢をどんなところ、どんな人たちとも大切にしてゆきたいと思っております。

我々が今力を入れているのは石川県の能登地方だけではありません。宮城県の南三陸地区、岐阜県、島根県、北海道。いずれも、大いなる可能性を秘めた地域です。私たちがきっかけとなって、地域の人の魂にささやかなりとも火を灯すことができれば……

執筆者

未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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