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未知倶楽部コラム

エッセイ「『ありがとう』のページ」

2007年01月11日


道の駅きりら坂下 支配人 三尾弘成
私は、道の駅で支配人として勤務しております。しかし、訳あって「そば」を打ってお客様に提供しております。
そば打ちは、自ら望んだ職種では有りません。ずっと事務職でした。

そば打ちなんてまったく経験が無く試行錯誤の日々、なんとか見よう見まねでそばを打ち、 お客様に提供しましたが、対価を得るにはまだまだ不安がありました。 そして、そば打ち体験の講師も同じです。はじめから教本が有るわけでもなく、 そば打ちを始めたばかりの私が、他人に教えることに対してはかなり抵抗がありました。 自分に技術も無いのに他人に教え、対価を得ている事に「これで良いのか?」、 「お客様に失礼ではないのか?」と悩んでいました。

そんな頃、家族連れのお客様にそば打ちを指導しました。4人家族でしたが、 お母様はそば打ちには一切参加せず、お父様と子供達がそば打ちをしているのをニコニコ笑顔で見ているだけでした。

当時、手作り体験施設には「落書き帳」を設置し、お客様に自由に書き込んでもらっていました。 お客様が帰った後、それに目を通しました。

「単身赴任生活の主人が、ここのそば道場へ行こうと誘ってくれ、 中三の子供は、しぶしぶですがついて来てくれました。 久し振りに、親子3人一つの事に目を向けてひとときを楽しみました。 子供が小さい時は・・・(中略)・・・きしめんのようなそばを食べています。 でも美味しかったです。ひとときのしあわせありがとうございました。」

と記してありました。自然と涙が溢れてきました。悩んでいた気持ちが一気に覚めました。 そばを上手に打つことを指導するのはもちろんであるが、それだけでなく、 その時間をどのように過ごすかも大切な事だと痛感しました。

それからは、お客様にそば打ちの技術だけを指導するのでは無く、 その時間、お客様と同じ空間を楽しむように心掛けるようになりました。 今でも、辛いこと、嫌なことがあった時はあのページを読み返し、勇気をもらっています。

執筆者

道の駅きりら坂下 支配人 三尾弘成

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