エッセイ「ある秋の日、盲導犬とのふれあい」
2007年01月11日
道の駅今治湯の浦温泉 駅長 村上雄三
9月下旬のある日、道の駅にはお彼岸で里帰りの方々がたくさん来ておられた。 御供物の購入で、それとなくわかるのである。多忙な対応のなか、一人のご婦人が「タクシーが呼べないか」と問われた。聞けば、JR四国で京都へ帰る、マイカーではない由。
当道の駅へ寄るバスは一時間に一便だけで、しかも駅はJR今治駅と東方の壬生川(みぶがわ)駅の中間にあり、いずれにしてもタクシーを呼ぶには甚だ中途半端であり、気の毒である。
私は「壬生川駅の方が近いし、特急も停まりますから、車でお送りしましょう。正面へ車を廻しますから。」 ・・・駅長としていつも対応している気軽な、ちょっとした手助けである。
車を道の駅の駅舎前に横づけにして初めて気がついた。先程のご婦人と一緒に、盲目のご主人と盲導犬が待っている。「あ、そうだったのか」。そして一瞬私は戸惑った。私の常備車は、今治では一台しかないオーダーのRVハイラックスサーフの2ドアである。後部荷台に犬を乗せるか、身障者を乗せるか。ともかくご主人を先にと、助手席をスライドさせる。
するとどうだろう。犬君はいとも馴れた様子で、ご主人に目を合わせるとスルリと後部座席の奥へすべり込み、主人を迎えた。そして「運転は大丈夫かな」とでも云いたげにドライバー席を覗きこみ、私の目をみる。「賢い犬ですネ」と云う私に、ご主人は「これが家内の代わりをしてくれます。」そして私と同じ村上姓を名乗られた。
壬生川駅で別れる際も、盲導犬君は名残り惜しそうに、ご夫婦ともども私を見送ってくれたものです。駅へ帰る間、私の心は、その日の秋晴れのように爽やかであった。「道の駅」はこんなふれ合いが毎日のように待っている。改めて嬉しく思う。
執筆者
道の駅今治湯ノ浦温泉 駅長 村上雄三