未知倶楽部コラム

点と線

2006年12月20日

本日は点と線についてお話をします。かの有名な松本清張の推理小説の話ではありません。

私は常日頃より、日本にはどんなに小さな地域に行っても素晴らしい資源があると思っております。そしてその地域をアピールすることにエネルギーを費やすことは地域の自信回復運動として意義深く、地域の再評価にもつながるものだと信じております。

しかしその一方で、昨今話題となっている地域団体登録商標の動きに見られがちであるとおり、地域は自分達だけの“地域らしさ”を売り出すことにこだわり過ぎる、いわば地域単独主義にぶれ過ぎているのではとも感じております。

さて、道の駅の話です。

全国いろいろな地域を巡り、たくさんの駅長さんとお話をしていて驚いていることは、隣りの道の駅の駅長さんを知らない、顔すら見たことがない、という駅長さんが意外と多いという事実です。定期的にブロック単位での会合が催されているようですが、それに出席するのは必ずしも現場の責任者ではなくて、道の駅の現場に普段は携わっていない市町村の担当者であることが多いと聞きます。ちなみに私たち未知倶楽部が定義する「駅長」とは、道の駅という現場で体を張って利用者や地域の人達と接している支配人や責任者のことです。役職名としての「駅長」さんを指している訳ではありません。

このような会議で形式的に顔を合わせるだけでは、相互交流とは言いがたいです。また、駅長さんどうしが交流する機会がないと、時として隣りの道の駅を単なる商売仇として捉えてしまう傾向があるのではないでしょうか。商売仇はライバルとは異なります。ライバルとは相手の能力を互いに熟知し、互いを高めて行こうとする関係ですが、商売仇は足を引っ張り合うだけの関係のことです。道の駅同士ではそのような健全なライバル関係になれないところが多いようです。

個別の地域というのを一つの“点”と見なすと、“点”が独自の魅力を高めて域外の人を呼び込もうとするのは大変なことです。果たしてそれだけの集客力を持った“点”が全国にどれだけあるのでしょうか。富良野、小布施、津和野、内子などの素敵な街や、銀山温泉、渋温泉、黒川温泉など小さいながらも個性の光る温泉地のように、集客力も知名度も高いスポットは確かに存在します。こうした地域は、地道な努力をした結果として名声を勝ち取ったわけですが、それですらその人気が永続すると保証されているわけでは決してありません。人の心は移ろいやすいものです。かつて大勢の人が訪れた地が、今は寂れているという姿は全国至る所にあります。

それでは、現時点ではあまり知られていない地域はどうしたらよいのか。そしてその魅力を可能な限り永続的に発信し、来訪者を魅了し続けるためにはどうしたらよいのか。

それに対する答えとして、まずは“点”としての地域同士が結び付き、そして“線”になることを提言したいと思います。

道の駅は地域の核にふさわしいと捉えている私としては、道の駅が地域とのネットワークを進めて“点”を“面”として広げ、更に“線”と繋げることによって“より広い面”へと展開を図ることが肝要だと信じております。

ところで、個人の旅行者が、あまり知られていない地域をピンポイントで目指すのは、かなり敷居の高い旅のスタイルと言えます。
そもそも知らない土地というのは、幾ら素晴らしい観光パンフレットを手にしてみてもなかなか踏み込めないものです。一般の人にとっては、旅行に行ける機会は年に何度もありません。「がっかりしたらどうしよう」という不安があるので、旅行先としての定評のない土地を目的地として選ぶのは、よほど親しい人に勧められでもしない限りは極めてハードルが高い、という理屈です。

ところが“面”としての魅力が確立されていて、“面”を構成する“点”としての様々な地域のコンテンツを味わえるとなると、地域の訴求力が乗数的に増します。ある意味のリスク分散も出来ますから、初めての人でもその世界に飛び込もうとするかもしれません。

日本の狭い国土には山の文化、川の文化、海の文化等が互いに近接しあっており、狭いエリアの中で多種多様な文化を味わうことができます。私はかつて、サハラ砂漠を長時間走破した経験があります。そのときの私は、延々と広がる同じ景色を眼前にし、まるで永遠の時間に囚われているように感じました。スリルやダイナミズムどころか、気だるさと睡魔に襲われたくらいです。このような世界と比べると、瞬間的に目まぐるしく変化する我が日本の景観美を誇らしく思っています。

山ひとつとて同じものはなし。川ひとつとて流れの緩急も違えば水面に映る色も違います。また、数分間の運転で通過してしまうような村にも何百年と続いた人の営みがあることを知るに及び、そのことに思いを馳せなければ罪深さすら感じます。

確かに、域外の人達にとっては、個々の“点”はわずか数分程度で通過するポイントに過ぎないかもしれません。しかし、そこには深い世界が横たわっています。その深い世界を、域外の人にも味わってもらわねばなりません。だからこそ、点と点が手を取り合い、面的な展開をして、人々がその魅力を堪能出来る仕掛けづくりをするべきではないでしょうか。

その仕掛けとは、一旦“面”としてのエリアに利用者を誘い入れたら、容易にはエリア外に出さないように工夫することを指します。さながらピンボールのように、A点がB点へ向かって来訪者をはじき、次にB点がC点へはじき、C点がD点にはじく、今度はD点がB点にはじき返す、といった具合に。可能な限りこれを続けて、来訪者にはエリア内の景観、歴史、食文化、特産品、人、といった地域資源に、できるだけ多く、ゆっくりと、そしてより深く触れて貰うような仕掛けのことです。これを私たちは【ピンボール理論】として提唱しています。

地域は連携してこそ生き延びられる。大都会の魅力が日に日に低減しつつある昨今だからこそ、連携によって地域の価値を高めるチャンスが到来しているとも言えます。

自力更生、相互扶助、連合連携。

まずは道の駅の駅長さんには、隣の道の駅を訪れ、そして知り合いになって欲しいと思います。道の駅が隣りの道の駅を紹介する。それこそが利用者が望んでいる姿です。


執筆者

未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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