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未知倶楽部コラム

プロポーズ大作戦  〜おせっかいなキューピットたち〜

2009年08月10日

レッドカーペット
レッドカーペット
奈良県の南東部に位置し、吉野杉の主産地である緑豊かな村・川上村。この川上村にある『道の駅 杉の湯川上』に隣接する村営の温泉旅館「ホテル杉の湯」・・・大自然の中の小さな村営ホテルから、この物語は始まっていきます。

2月のある寒い日のこと・・・。いつも通りに電話のベルが鳴り、スタッフ中川は、明るい声で予約の応対に当たっていた。春は吉野山の桜見物のお客様が増える時期、開花予想などを含めながら丁寧に話をしていたとき・・・ふと、電話の向こうの男性は、神妙な声になり少し恥ずかしそうにこう言った。

「あの・・・桜の綺麗な場所を教えていただけませんか?実は・・・・桜の花が大好きな彼女にプロポーズしたいんです。」

中川は、初めてのお申し出に戸惑いながらも、「わかりました。満開の時期を少し過ぎていますけど、探してみます。」と快活に応えた。

今までの杉の湯なら、「どこそこの桜がキレイですよ。」という返事で終わっていたかもしれない。 しかし、この年の年頭の会で「ホテル杉の湯はお客様と共に感動するホテルを目指す」という理念を全員で共有していたところであった。全員でお客様の感動のために、行動を起こす!という改革の炎が一人ひとりの胸に燃えはじめていたのだ。中川の心の中にも、勿論「お客様に喜んでいただきたい!」という思いがわき上がっていたのである。
満開の八重桜
窓の外は満開の桜

早速、スタッフ達はミーティングを開始!
この素敵なお申し出に、「どこが綺麗だろう?」「どうしたら、彼女に喜んでもらえるのかな?」「絶対上手くいってほしいなぁ!」と全員がまるで親友の手助けをするかのごとく真剣に、かつ笑顔で心躍らせ討議をするのであった。

杉の湯の支配人、久保はその様子をそっと温かく見守りながら、スタッフの頑張りを心から応援しなくては、と決意していた。そして、こっそりと彼らも驚くような仕掛けを頭の中で練っていた。

こうして、ホテル杉の湯の「プロポーズ大作戦」は始まった。

やがて、お二人が見える日がやってきた。一重の桜の時期を終え、八重の桜が満開の時期だった。

事前にスタッフと彼、ヒロ君は、綿密な打ち合わせをして、万全の体制でこの日を待っていた。お二人のために、選んだ場所は、杉の湯の兄弟施設「匠の聚(たくみのむら)」。ここの喫茶コーナーは景色も最高!雨が降っても大丈夫、桜も近くにちゃんと咲いている、彼女の好きな曲はすでにリサーチ済みで館内BGMの準備もオッケー!

前日に、久保支配人が手配していたレッドカーペットも彼らの指定席に向かって入り口から敷かれていた。

匠の聚のコテージに宿泊されていた家族連れにも一緒にお祝いしていただけるよう依頼、ちびっ子達も嬉しそうにクラッカーを握りしめる。そして、ようやく主役の二人が匠の聚に到着、引き込まれるようにレッドカーペットに導かれ恋人達の指定席へ!

本番まで一刻と迫る瞬間
感動の瞬間はもうすぐ・・・!
二人は仲良く語り合い、恋人達の時間を楽しんでいた。

そっと柱の影から見守る杉の湯・スタッフ、クラッカーを早く鳴らしたくてうずうずしているちびっ子達。

彼女の輝くような笑顔になかなかプロポーズの言葉が言い出せない彼・・・・

しかし、ようやく意を決し、事前に用意していた桜の花をそっと手渡しながら、思いを告げると・・・

突然の出来事に目を開き、驚く彼女。そして、なんと大きな瞳から涙があふれ出し下を向いてしまった。

彼女が泣いている!!!
えええ〜〜〜!!!!隠れて見ていたスタッフも思わず時が止まる!!!

ふと彼の方を見ると・・・・あわわ!!彼も泣いてる!!!!これは・・・ま、まさか!!!!心の中で大あわてのスタッフ達!!

ところが・・・・泣いていた彼が、涙がぬぐいながら・・・フッと笑った。
え??? どっちなの????

振り向いたヒロ君は、隠れていたスタッフを見つけ、「OK」のVサイン!
よかったぁ!!

「おめでとう!!おめでとう!!」
パン!パン!パン!!!子ども達もようやくここぞとばかりにクラッカーを鳴らし、大はしゃぎ!!! 突然、ふわりと、窓の向こうに何か降ってきた・・・!!!

淡い桜色の幕に、なんと大きな「おめでとう!」の文字が!
おめでとう!
おめでとうございます!

これは久保支配人からの二人へのサプライズ・プレゼントだった。思わぬ大勢の祝福の嵐、お祝い垂れ幕の登場に、びっくりした彼女の目から、今度は大粒の涙があふれ出し、止まらなくなっていった。

「ありがとうございます。知らなかった。こんなにみんなに祝福してもらって・・・・」

彼女の声は喜びのあまり震えていた。
ヒロ君は、彼女に訳を話し、「おめでとう」の垂れ幕の前でそっと彼女をだきしめるのであった。

こうして、二人は愛を誓い合い、その後お互いの家族に挨拶に行き、一年後には新しい人生をスタートさせていきました。

本当におせっかいなホテル杉の湯のキューピット達・・・・。幸せなお二人の姿を見て、全員がその純粋さに心打たれ、逆に自分たちが幸せな気持ちになっていた事に気づきました。

お客様の笑顔が、こんなに嬉しいなんて・・・。
私たちの仕事って、こんなに素晴らしいんだ。

ホテル杉の湯の目指す「お客様と共に感動する」ことの素晴らしさを、このお二人から教えてもらったんだと、スタッフは感じていた。

ありがとうございます。
ヒロ君、チサさん・・・永遠にお幸せに・・・・。
私たちは、いつもこの吉野の地でお二人を心から応援しています。

執筆者

道の駅「杉の湯川上」 久保信幸駅長

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