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未知倶楽部コラム

小浜(OBAMA)紀行

2008年11月28日

先日、福井県小浜市を訪れました。ひかり号に乗り米原駅で一旦降り、しらさぎ号に乗り換え敦賀方面に向かいます。米原では晴れていた天気が滋賀と福井の県境を越えた辺りから全く予想外の雪景色に変ります。11月のこの時期、降雪は北海道だけと信じていましたが、きつねにつままれた様な妙な気持になりました。一面雪に覆われた白い世界の敦賀駅に降り、迎えに来られた市役所の車で小浜へ向かいました。今度は進むにつれ雪どころか雲一つない晴れ渡った秋空が広がります。僅かな移動距離と時間でこれだけ異なった天気と遭遇するということは通り過ぎた村々では相当異なる文化を宿している筈と直感的に感じた次第です。

小浜市は今や全国で最も注目されている市とも言えましょう。昨年の秋から今年の春まで放映されたNHK朝のドラマの‘ちりとてちん’で一躍有名になりましたが、最近では小浜市民が米国大統領選で‘勝手にオバマ氏を応援する会’を作り米国のメディアが大挙して取材に来るなど世界的に知名度を上げております。アルファベットで書いても読んでもOBAMA=オバマ=小浜と全く同一な訳ですから奇妙な縁です。このようなフィーバー振りに対して冷ややかな意見もありますが、私は単なる便乗商法だと思っていません。小浜市がオバマ新大統領を応援し始めたのは民主党の予備選の段階です。もしマケイン候補が勝っていたら米国政府の圧力で小浜市いじめが起こることも考えられましたので体を張った立派な地域アピールと言えましょう。また、所詮政治は‘まつりごと’。本来は宗教的儀式としてのまつりごとの意味ですが、この言葉は俗世に於ける‘祭’とも通じるわけですので、勝手に応援する会’を作り、フラダンスを踊るというのもまんざら脈略が無い訳ではありません。それが地域を元気にする契機となるならば大いにおやりになれば良いと思っております。

ここ小浜(若狭小浜)は万葉の時代より淡路、伊勢と並んで朝廷に対して天皇のお食料を収める国を指す御食国(みけつくに)として定められておりました。若狭と京を結ぶ街道を‘鯖街道’と称し、距離として80キロ近くを一昼夜を掛けて鯖を届けたとのことです。また、暖流と寒流が交差する若狭湾は魚の宝庫と言われ若狭ガレイ、若狭鯛、若狭フグ等が有名です。また鯖を糠漬けしたヘシコというのも有名で、酒の肴にうってつけです。

今回訪れた場所で最も印象的だったのは食文化館(正式名称は‘御食国おばま食文化館’)です。鯖街道の歴史紹介、鯖の郷土料理から現代風の料理レプリカ展示(奥村彪生コレクション)、若狭の素材を使った料理体験の出来るキッチンスタジオ、2階の伝統工藝ゾーンでは若狭和紙、若狭めのう、若狭瓦、若狭塗箸の職人直伝の体験も出来ます。全てをじっくり見学するには優に3時間は必要な程豊富なコンテンツに溢れております。

この食文化館は‘食’というテーマを元に小浜市の歴史、文化、観光、それと生活(食育活動含め)を見事に編集しており、館内を巡りながら小浜市が他の地域と峻烈に識別できる‘売り’は‘食文化’であることを五感で充分に納得することが可能です。全国各地に様々な美術館、博物館等がありますが、これほど編集術に優れ且つVivid(活き活きとした)な展示館は記憶に有りません。

ところでこの食文化に優れた小浜市では道の駅を新たに建設するプランがあります。舞鶴、敦賀を結ぶ高速道路が6年後に開通する予定で、小浜市のICを降りた直ぐ近くに道の駅が建設されることが決まっております。実際に現場を訪れましたが既に整地作業を始めております。

この場所は、ドライブイン、ファミレス、ディラー等の店舗が乱立する国道24号線から逸れたところにあり、手垢の付いていないのどかな畑と緩やかな山々が広がっております。この美しい風景の中に3年後新しい道の駅が姿を現すのです。

私は、車を降り、整地作業をしている建設現場を見つめ、そしてそっと目をつぶってみます。
すると道の駅の姿が瞼に映し出されます。


『社寺仏閣が多く歴史の深い街らしく木造和風建築の道の駅です。でも重々しさは感じずとても和める雰囲気です。

正面玄関の広いガラスのドアを通るとロビーがあります。建物内は古風というよりモダン。天井の窓ガラスからは暖かい光が射しており自然のぬくもりを感じることが出来ます。

右手には特産品売り場と、青物市場があります。特産品コーナーには小浜の食文化を象徴する浜焼き鯖、へしこ、くずまんじゅう、若狭カレイ、なれずしが並んでいます。歴史、生産者、調理方法が細かく紹介されており、小浜の食文化の歴史の深さを商品を通じて学ぶことが出来ます。試食も出来ます。それだけでなく、地域のおばちゃん達の手作り弁当、それと若い主婦のグループが作ったクッキー等もあります。更に、伝統的な食材を使って若者達が奇抜なアイディアで作り上げた新作の特産品が陳列されています。

食品売り場の奥には若狭小浜の伝統工芸品である若狭塗り箸、和紙、めのうも販売されており、時々市内他施設から職人さんが来られ目の前で制作している姿を見学することが出来ます。

青果物売り場には新鮮な朝採り野菜が売られています。その中には名産矢田部ねぎが並んでいます。生産者が頻繁に棚に納めているので生産者の生の空気に触れることが出来ます。また、その野菜を使った郷土料理の紹介もされています。厳しい品質チェック手法も掲示されており安心して買えます。

ロビーの左手奥にはレストランがあります。郷土料理ではなくなんと地元の食材を使った和洋折衷の洒落たシーフードレストランです。これだけ豊富な食材があればイタリアで修行し、京都の一流店でシェフを任された経験のある料理長にとってはさぞかし腕の振るい甲斐があることでしょう。味そして見立ても一流。地元の人だけでなく、遠くは京都、大阪からも噂に聞きつけ多くのお客様が押し寄せています。食は文化。文化であればこそ変化を恐れないもの。それを果敢に実践しています。

ロビーには情報コーナーがあります。市内の文化施設、重要文化財に指定されている社寺仏閣へのアクセスが簡単にわかります。レストラン、和菓子屋等商店の情報も判ります。イベント情報も豊富です。NPOで運営されている地域案内人とは今この瞬間コンタクトが出来ます。壁には大きなマップが貼ってあります。小浜市内の散策コースだけでなく、半日、一日、二日等滞在予定日数に応じた観光コースも載っています。これを見るとつい滞在を延ばしたいと思ってしまいます。何よりも案内係の女性が笑顔が美しいです。

駅長さんの姿も見えます。お客様に近寄りにこやかに話し掛けています。相手は東京から来られたシニアの夫婦です。店員は若い人、お年寄りの人、皆きびきび働いています。 』


目を開くと冷たい風が体を吹き抜けて行きます。

竣工式まであと3年。

限られた財源で如何に無駄なお金を掛けずに、多くの富を生み出す仕組みを作り出すことが出来るかが命題であると思います。必要なのはハードではなくソフトです。自由に絵を描くイマジネーション力と着実に創り上げるクリエーション力です。

多様な地域の人たちが関わり、地域の人が誇りと思え、そして地域の人と域外の旅行者が融合出来る道の駅が出来ることを祈っており、私は熱い情熱をお持ちの松崎市長なら必ずそういう道の駅を作って下さると信じております。

最後に、この場をお借りしまして、今回の訪問に当たり大変親切にご案内頂きました小浜市役所の皆様方に対して厚く御礼申し上げます。

執筆者

未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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