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未知倶楽部コラム

地域力を発揮する為には

2008年09月05日

昨今、農業自給率を引き上げる話題が沸騰しております。

海外から輸入する穀物価格の高騰、中国ぎょうざ事件等が発端となり一気に国内産の農産物がクローズアップされるようになりました。国の安全保障にとって最も重要なことは食料確保、エネルギー確保つまり‘民生の安定’であることは古今東西当たり前なことですが、海外からの一連の出来事によって動揺し注目されると言うのも可笑しな話です。

昨日テレビ朝日の報道ステーションを観ておりましたところ、島根県の第三セクターが特殊な冷凍方法を取り入れて中国、香港向けのイカの輸出を急増させている話と、山梨県のある農家が高い品質の桃を栽培してプレミアム化し台湾向け輸出で大成功を収めている話が取り上げられておりました。

このような地域の頑張りが紹介されますと‘あっぱれ!’と思い大変嬉しくそして勇気づけられますが、一方で地域事業を進めております私としては、一般の視聴者は画面で放映されている姿だけでなく、もっと大切なことを理解して欲しいとも思っております。

それはマスコミに取り上げられるようになった理由はその‘ネタ’が売れそうだと思ったからで、売れそうになった理由は冒頭に書きました背景があるからであり、そうでなければ果たして取り上げたのかどうかということです。

一方、そのネタに取り上げられた地域の方です。画面では自信に満ちた満面の笑顔を見せておりしたが、彼らには苦節何年も耐えてきたという大変なヒストリーがあるのを忘れてはいけないし、そのことへ思いを馳せる想像力を持って欲しいです。

島根県の第三セクターで取り入れている特殊な冷凍方法ですが、調べてみましたところCASフリージング・チルド・システムというものです。凍結時にある技術により微振動を与えることによって均質な凍結を実現し、細胞を破壊せず解凍時には釣れた時とほぼ同じ鮮度を保つものです。CASとはCells Alive System(細胞を生かす仕組み)ですので正にその言葉どおりの技術です。値段は正確には知りませんが結構高い設備だと思います。この報道では触れられておりませんが、この設備を導入した責任者はどれだけ周囲の反対と闘って来られたのか。恐らく導入した当初は技術は良いけどどうやって海外に売るのかとか本当に中国の方にその良さが伝わるのかとか、採算が合うのかとかその時の‘常識’の前で苦悶されたのではないかと推察します。

また桃を中国、台湾に輸出しようと考えた方はどれだけ周囲から変人扱いされてきたのか。中国、台湾の方はそこまで味に拘るのかとか、そんな高い価格で買ってくれる筈がないとか、これもまた‘常識’という言葉に打ちひしがれる日々が続いたのではないかと推察します。

当然、先駆者というのはそういうものでしょう。

私はほとほとこの日本という国は余りにも先駆者に冷たく、そして自力(各人の主体的考え)で変革する力が少ないことを嘆きます。

冒頭に書いた話です。翻ってもしサブプライムローンの影響で行き場を失った巨額な資金が穀物相場市場に流れて穀物価格が高騰していなければ、また、中国のぎょうざ事件が起きていなければ、今や当たり前のスローガンとなっている食料自給率向上運動に繋がっていなかった可能性は高いでしょう。

多くの学者、専門家は何年も前から食料問題、農業政策について指摘をしてきております。しかし多くの方は真剣に捉えなかったでしょう。一方で、そのような議論の行く末には期待せず、地域の多くの方々はそれを信じて小さな力ながら耐えつつ実践して来ておりました。‘地産地消’とか‘トレーサビリティー’などは一般に知られる標語になる何年も前から実践して来られている地域の方、道の駅を知っています。

このような動きが起きてから儲かりそうだと思い取り組もうとする企業が多いです。それを否定する訳ではありませんが、せめて実践して来られた方々の今までの想いだけは共有する位の謙虚さが必要だと思います。資金を投入すれば、販路を見つけさえすれば彼らを助けていると思うのは思い違いかもしれません。地域で頑張っている人が一番欲しているのは認めてもらうことと共に苦難の道を歩んでくれることです。

色々な意味でこれからは企業の役割が増してくると思っております。企業は国、社会にとって何が大切かというビジョンを持ち、また陰で苦しんでいる人、闘っている現場の人そのものを見つめ、彼らと語りそして助ける気持が必要だと思います。

社会企業家という言葉があります。

社会企業家というのは‘儲かるものを儲ける’‘直ぐ儲かるから手を出す’という目先の利益を追うものではなく、世界、国家、社会、文化等何が理想的な像であるかを描き、その理想を構築する為に如何にしてビジネスを通じて取り組むかを考えている人のことを指します。現実には企業は短期利益、株主への利益の還元が求められる為に実現は困難です。しかしそれで諦めてはいけません。私は一企業が単独ではなく企業間ネットワークを図り、また行政-地域-各種団体の人たちとのネットワークを広げることにより実現は出来るのではないかと信じております。

未知倶楽部は‘その時その時の’、‘その場限り’の価値観に振り回されず、今この瞬間、陽が当たらなくてもコツコツと地域経済活性化事業を進めている方々とのネットワークを大切にしたいと思っております。
執筆者

未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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