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未知倶楽部コラム

道の駅を評価するとは

2008年08月13日

先日、知人より是非読んでもらいたいという本を紹介されました。日本経済新聞出版社の『五つ星の美術館』です。題名も美しく、とてもコンパクトな本なので一気に読みました。以下があらましです。

70年代の後半から90年代の前半にかけて美術館ラッシュという時代を迎えます。1955年には僅か47の美術館しかなかったのですが、現在1000近くあります。つまり僅か半世紀で20倍以上となった訳です。とりわけバブル最盛期の80年代後半には世界の美術品オークションでは土地神話を担保に莫大な資金を持った日本企業、個人、そして地方自治体が片っ端から名作を競り落とし、その作品を展示する場として美術館が用いられました。

さて、この本の題名にもあります『五つ星の美術館』ですが、全国にある公立美術館134館を初めて格付けしたというものです。

それでは何故この時期に公立美術館を評価をしたのでしょうか。

この本の中には公立美術館の置かれていた状況について触れております。嘗ては『地域の文化向上の為に』という大義名分のもとで各地でどんどん建設をしました。経営的に赤字であろうが補助金が充当されておりました。集客が出来ようが出来まいが、企画の質が高かろうが低かろうが、学芸員の愛想が良かろうが悪かろうが、自治体の固有の価値観(=評価基準)の中で運営していれば良かったのです。

ところが自治体の財政が厳しくなり状況ががらりと変わりました。果たしてこのまま公立美術館を運営し続けて良いのか。赤字を垂れ流し続ける体質、地域貢献度への疑問、それと美術館としての文化、芸術の質の向上維持効果への疑問等への問題提議が初めて湧き起こったのです。

収益改善だけを取り上げて指定管理者制度を積極的に導入する事例も増えました。しかしそうすると経営が良くなっても、果たして本来の美術館としての文化、芸術価値を保持する機能を全うすることが出来るのかという新たな命題に直面します。

運営する行政側には自分達が建てた美術館を明確に評価するものさしがなく迷走を続けます。正確にいうと今までの行政のものさしでは計れない他のファクターが何であるかが分からず迷走し続けていたということです。そこで第三者による新たな評価基準を明示して評価・格付けをする必要があるのではないかと日本経済新聞の文化部の方々が考え、独自の案を提示した訳です。

それではその評価基準とは何か?

「学芸力」、「地域貢献力」、「運営力」です。
この基準の詳細説明は本文で割愛しますが概ね想像出来ると思います。ご興味のある方はご購読願います。

私がこの本を読み、驚きとともに着目したのは今まで公共施設を外部の人間が独自に評価する(つまり行政と協議をせずに評価する)ことは‘行政の聖域’への侵食としてある種のタブーであった訳ですが、この本は見事にそのタブーを打ち破ったという事です。そして評価をしたことに対して批判的な意見よりもむしろ評価の手法が知りたいと言う積極的な問い合わせが行政等から多く来たと言う事実です。つまり肯定的に受け入れられたということです。著者(日本経済新聞文化部)の高い知見と勇気のある行動を賞賛したいです。

さて、翻って道の駅はどうかです。

私は5年近く各地の道の駅を見つめております。多くの道の駅を訪れ、多くの駅長様そして管轄する自治体の関係者と語り合ってきました。現実には地域、行政からの充分な支援を受けられず困り果てている道の駅があります。連合連携による相互扶助、全体としての質の向上を呼び掛けても、ブロック内の道の駅との連携どころか直ぐ隣りの道の駅すら訪れたことがない道の駅の駅長さんがまだ全国に沢山おります。国道は道の駅を拠点として繋がっていますが、それは飽くまでも物理的にです。未だ‘こころ’では繋がっておりません。また、自治体毎に道の駅の重要度が違います。単なる休憩所程度に位置付けているところがありますし、一方では道の駅を地域情報、産品の集積及び発信場所として位置付け、それにより莫大な金銭的、精神的富を地域に還元している道の駅もあります。道の駅制度が創設されてから15年も経つのに何が良い道の駅で何が良くないか、‘道の駅のあり方’に関して明確なものさしがないまま迷走を続けております。丁度、この本に書かれている公立美術館が置かれていた立場の様にです。

このような状況下、最近私は道の駅に適切な評価基準を設けて格付けをしていくべきではないかと感じております。道の駅の持つ潜在力を引き出すためです。このままでは道の駅全体のブランド力は低下して潜在的に持っている力が出し切れなくなることを危惧しているからです。

それでは道の駅にはどのような評価基準が適切かですが、私は以下と考えております。

その一。 地域情報力

その二。 地域貢献力

その三。 経営能力

地域情報力とは、道路情報、地域資源(観光、物産、人、歴史、体験、宿泊、食等)情報を如何に効果的に収集して発信しているかです。情報コンテンツは生き物です。毎日刻々と変わります。その生の情報を仕入れて発信する為には地域の人たちとの積み重ねてきた関係性(地域ネットワーク力)が問われます。それとそのコンテンツを発信する効果的媒体を持っているかどうかも重要です。どんな有益な情報も適切な手法で、伝えたい相手に伝えない限り意味がありません。それを総合的に出来ているかどうかが地域情報力です。

地域貢献力とは、地域住民がどれだけ道の駅と関わっているかです。地域住民の道の駅利用数、地域イベント開催数それと地域住民の満足度が先ずその要となります。併せて地域の商品発掘・紹介に努めたり、地域の雇用にどれだけ役立っているか、つまり地域経済への波及効果をも評価する上で加味すべきでしょう。

経営能力とは、基本的にな民間企業の指標と同じです。道の駅の立地条件は各々違いますので売上規模では 評価できませんが収益(利益)面では一定の指数で客体化をすることが可能ではないかと思います。但し、これだけでは公共財としての経営とは言えませんので上記地域貢献力と関連付けて考える必要があるかもしれません。 何故なら数字だけ上げるなら域外の商品を仕入れたり、コンビニのような合理的経営を導入した方が楽だからです。外の商品を仕入れて販売すれば地域のお金は外に出て行きます。それよりも域内の商品を外から来られたお客様へ売れば域内の富は蓄積されます。また仕入れる商品も精査する必要があります。都会の商品を仕入れるより近隣地域あるいは他の地区の道の駅の商品を仕入れた方が全国規模での地域経済活性化への寄与の面で価値があるでしょう。このように同じ数字でも意味が違う訳でその辺りは精査する必要があります。

それでは誰が評価をするのかです。私は第三者それもしっかりとした視座を持った人たちにより可能な限り客観的に行なう必要があると思っております。定量的な面は分かり易いですが、一方で定性的な評価たとえば美しい、おいしい、おもてなしがある等の表現は限りなく情緒的な要素を抜いて具体的な言葉に置き換えて評価をしていく必要性を感じております。

そして最後に、最も大切なことは評価することを目的化するのではなく何の為に評価をするのかという上位概念を評価・格付け作業を通じて共有化させることだと思っております。つまり、その評価を通じて道の駅をどう変えてゆくのか、道の駅を変えてどのような社会を作っていくのか、地域の経済、農業、文化のあり方ひいてはこの国をどう変えていくのかという壮大なビジョンが明示されることだと思います。


大変な命題ですが、未知倶楽部としては近い将来全国道の駅の評価、格付け作業を行なって行きたいと思っております。
執筆者

未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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