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未知倶楽部コラム

北海道の観光について

2008年02月08日


北海道の冬の観光もピークを迎えています。
札幌や旭川の都市部だけでなく全道各地のイベントが集中する時期です。
オホーツク海も流氷の接岸が続いており砕氷船も大人気なようです。氷の量は別として、 流氷接岸がこれだけ継続しているのは久々のことです。

サロマ湖流氷
流氷
北海道の冬の観光についてあれこれ考えていましたが、最近、新聞や機関誌で沖縄の観光施策や 大企業の営業手法と「北海道の観光」を比較するような記事を見掛けました。 かなり以前から列島両端の地は比較に持ち出されます。観光に掛ける予算が多いとか少なすぎるとか、 観光客満足度が高いとか低いとか....。 どちらも観光関連産業にも頼らざるをえない経済構造があるのですが、観光関連のネタだけでなく 共通していることもいくつかあります。

「最長」と言われる好景気をほとんど実感できなかった地域であること、求人倍率が低いこと、 新卒者の就職内定率が低いこと、平均賃金と最低賃金が低(安)いこと・・・ これらは北海道と沖縄が最下位を競うような状況です。(東北でも似たような状況はあるようですが)

全体の産業構造は当然違っていますが好景気でも恩恵が行き渡らない共通点があるようです。
相当遅れて好景気の恩恵が届いた頃には既に景気が失速・・・ということが何度もあります。
今回の好景気も、北海道に辿りつかないうちに終わりそうな気配を見せているようです。
《データ年度の取りかたによっては沖縄の経済は好調(?)という見方もあるようです》

 北海道は雄大な「自然」や「食」が売りです。厳冬期(1月〜2月)は雪と氷と流氷も売りです。
しかし、近年は冬の観光に危機感を抱いています。温暖化による気候変動の影響です。
流氷はかつての半分の量に減少し接岸日数は僅かとなり、スキー場も人工降雪機に助けを求め、 分厚かった湖の氷も薄くなり氷上でのイベントに支障が出る事態も起きています。
雪、氷、寒さを売りにした観光は近い将来できなくなるでしょう。

サロマ湖氷原
サロマ湖氷原
観光本番は新緑の5月末〜紅葉の10月中旬まで、そして雪祭りの期間でしょう。 残る端境期は?...考えてみると5ヶ月近くにもなります。
沖縄と比べると稼動日数には大きな差が出てしまいます。「だから工夫しなさい」と言われますが 何十年も手をこまねいていた訳ではなく、地域・企業ともに試行錯誤を繰り返してきました。
「努力が足りない」とも言われます。好結果が出ない以上は確かに努力も足りないのでしょう。

北海道では「端境期or閑散期」から逃れることが難しいのが現実です。景観にも食にも「旬」があり、 観光客はその旬を求めて遠くからやってきます。閑散期は極端に客足が落ち込み、道の駅サロマ湖でも 1日あたりの来館者はシーズン中の僅か3%(30%ではありません)程度の日が続くのです。
旅館や食事店は経営基盤も脆弱で通年雇用を確保する余裕はありません。(北海道に限りませんが)
半年あまりのオンシーズンで経営を維持するのは大変なことです。かつてオフシーズンは地元(道内)の 人達が温泉をよく利用しましたが、不景気が長期化してからはそれも激減しました。

良質のサービスを維持・育成するには継続的な教育が欠かせないものです。閑散期が長すぎるため 接客スタッフは短期アルバイトが主流とならざるを得なく、時間を掛けた教育訓練は難しくなります。 結果として経営側が意図する良質のサービスは維持できなくなるのです。

これはバスガイドなどの職種にも言えるかもしれません。地方のバスガイドは季節労務者と同じような 状況に置かれており、冬季間は仕事から干されてしまいます。通年で乗務できる地域に比べると 乗務経験から得る技術や意欲の面ではかなり不利な条件下にあるのです。
地元で働き続けるにはこれらの労働環境(悪条件&低賃金)を受け入れるしかありません。

こうした決定的に違う環境である北海道と沖縄を「単に比較する」ことはナンセンスでしょう。
しかしソフト面や行政の関わり等で参考になる部分はたくさんあると思います。
沖縄に比較すると北海道は歴史の浅い「移民の大地」です。全国各地の出身者が混在しているからなのか 「道民(地域)一丸となって」が弱いように思えます。「めんそーれ」と微笑みで歓迎してくれる沖縄県民 に比べると、北海道ではどこか冷めた雰囲気を感じてしまうようです。歓迎する気持ちが自然と溢れ出る 「気質」が南国沖縄にはあるように思うのです。文化そのものの違いでしょうが、是非とも真似ることから 始め、官民一体で心から歓迎する道民の「気質」に育てるべきでしょう。

専門家と言われる大学教授やエコノミスト等による観光政策についての記事や講演も見聞きしますが、 北海道全体の特異性を充分に理解しないでデータや資料を基に『べき論』を並べたり、沖縄や 優良企業と比較をされても素直に納得できませんし、問題の改善・向上にも結びつくことはありません。
様々な悪条件が複雑に絡み合って今の状況が出来上がっているのですから。

札幌の奥座敷「定山渓温泉」や「登別温泉」の周辺人口は250万人程度でしょう(北海道総人口の約半分)。 首都圏の商圏とは一桁ほど違います。稼働率・経営効率から見ると、とてつもない差です。
更に、沖縄や北海道は日本の両端にあるが故に交通費や輸送コストがネックになります。 ネット販売でも北海道や沖縄は宅配が別料金であり負担が大きいのです。(地続きの他県が羨ましい)

北海道の自然や食の観光資源は他県を凌ぐものかもしれませんが、様々な条件面でのデメリットもまた 他県を凌ぎます。広い&遠いための道内輸送コストも割高ですし首都圏ほどの需給スケールメリットも ありません。悪条件のスパイラルに陥っているようにさえ思えます。

各温泉地でも必死に工夫を凝らしていますが力(資本力)のある企業の寡占状態が進みつつあります。 この世界でも持つ者と持たざる者との差が出てしまうのでしょう。
知恵と工夫で乗り切る小規模旅館も存在しますが、知恵・気力・体力だけでは持ちません。

人気爆発中の「黒川温泉」のようにうまく転換できた事例はほんの一部だと思います。 中心商店街の活性化もそうですが、一時的な成功では投資の回収もおぼつかなくなります。 刻々と変貌する消費マインドの狭間で将来の展望が描けず苦悩している地方の経営者も多いことでしょう。

さて、北海道と他県の「圧倒的違い」は・・・広さです。沖縄県と比較すると30倍以上の面積です。
別な例えで言うと東北6県に新潟を加えてもおつりが来ます。(日本国土の21%を占める)
同じホテルに滞在して観光地を回れる沖縄に対し、北海道は移動型にならざるをえません。
現状で滞在型が可能なのは札幌を拠点とする場合とスキーが目的の場合くらいでしょう。

北海道でも連泊できる「滞在型」へ脱皮を・・・とよく言われますが、その要素が見出せるのは 限られた地域・施設です。一部の発展途上国を除けば経済の閉塞感は拭いきれません。 バブル期のように企業も思い切った投資に踏み切れませんし、「貧乏な自治体」だらけで公的整備も 期待ができないのが実態です。(国自体も借金漬けですが・・・)

結局は「自分の運命は自分で切り開く」に立ち返ることでしか将来は無いようです。
細る一方の公共事業にしがみついていても昔に戻ることはあり得ません。北海道の持っている資源 (自然・食・産業etc)を洗い直し、自活できる道を探ることが必要だと考える人たちが増えています。 その場しのぎではない地域独自の生き残り策を見出すことに力を注ぐべきでしょう。

ここオホーツク圏の冬の観光は「流氷」に頼ってきました。スキー場も僅かに存在しますが 存続が困難な状態に陥っています。冬の各種イベントもスポンサーや行政の支援でようやく 持ちこたえているのが現実のようです。温暖化を考えると流氷や氷に頼れるのはあと少しかもしれません。

知床の世界自然遺産指定の効果も一年で去ったと言われています。日本人の「自然や文化財保護」に 対する意識は諸外国のそれとは異なります。(ゴミの投棄や文化財への落書きを見れば一目瞭然)
マスコミが騒いでいる間だけ観光客が増えるのではなく、本来の魅力を理解してもらえるよう、 何度も来てもらえるよう、地道な努力と工夫を続けることが重要なのでしょうね。

最近では「エコツアー」や「フットパス」という言葉も聞かれるようになりました。 先進の諸外国と条件は違いますが、これからの北海道観光のキーワードになると個人的には思っています。
今はまだ一部の地域で試行されている状態ですが、大きく広がる可能性も高いと感じます。
観光客の一時的な欲求に合わせる観光行政ではなく、地域ごとに軸のぶれない長期的な取り組みを 期待したいと思います。

受け入れる側の条件整備は当然ですが、送る側(旅行会社)の意識も変わるべきでしょう。
旅行費用の安さを競う時代は終わりました。「見る&食べる」だけが北海道の魅力ではないことを もっとアピールして欲しいものです。ロシアから輸入の冷凍カニを連日食べさせて「北海道の食」 とは言えないでしょう。 旅行者自身も見せかけの食とかモノを追いかけることに飽き始めているかもしれません。

旅行客は非日常を求めつつも都会と同じ便利さを求めてきました。そしてその欲求に合わせながら 観光産業も生き残ってきましたが、気が付くとどこも均一化された姿になっていました。
地域性が失われ都会的な建物とコンビニ...都会の日常が田舎に引越しただけです。
もしかすると地域ならではの不便さこそが「真の観光資源」だったかもしれません。

これから北海道に求められる「観光資源」とは何でしょうか。当然ながら自然と食も土台となりますが、 手を加えない自然や食の「素」の良さを知ってもらうことが大切では、と最近は考えています。 自然は「商品」とは違います。お客の要望に合わせて「改造」してはいけないものです。
「観光開発」や「利便性」を理由にどれほどの自然を破壊したことか・・・「素」のままで保ってこその 「観光資源」だったはずです。

北海道では一部の都市を除くほとんどが「限界集落」とも言われます。道路や車の利用者も減少に 転じるでしょう。1時間に数台しか通らない高速道路を造るための投資から、山や木や水を守り育てる 投資へシフトチェンジをする時が来たのではないでしょうか。北海道全体を「自然遺産」として捉える くらいの考え方が必要なのかもしれません。

風や空気や水や植物...その色、臭い、感触を「感じ取る」ことの贅沢さ、お金に変えられない価値観が 理解されるのであれば、北海道そのものが癒しの大地になるはずです。
家庭排水の水質にこだわり続け、蛍の再繁殖に成功した例があります。工場の排水よりも家庭からの 排水量が圧倒的に多いことを知ることになります。地域ぐるみで取り組みを継続することで自然環境さえも 回復させることが可能なのです。

個人で或いは施設・企業単独で出来ることは少ないと思いますが、地域振興や地場産業に携わる人達が 知恵を出し合い、住民を巻き込んで前に進むことで大きな成果が得られるかもしれません。
この広大な北海道をひとまとめで何とかしようとするのは無理があります。地域ごとの連携を含め 複数のブロックでそれぞれの魅力を集約・発信してゆくべきなのでしょう。
私にはまだ見えませんが正解は一つではなく複数あるはずです。その糸口を探し周辺情報に耳を そば立てながら、地域の情報発信を地道に継続して行こうと思っています。
執筆者

道の駅サロマ湖 杉本武雄

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