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未知倶楽部コラム

近くのうなぎ屋

2007年04月16日

自宅の直ぐ近くに結構有名なうなぎ屋があります。

入り口は建物の二階で、一階が調理場です。一階は歩い ていると外から中が丸見え、そこは若い男性が数人割烹着 を着ててきぱきと調理をしており普通のうなぎ屋の姿ですが、 2階の店内に入ると一転洒落た雰囲気。照明も抑え気味、 ジャズが流れている店です。値段は少々高めですが、味は 口に入れたらとろけるような蒲焼(典型的な東京風)で抜群 です。

このうなぎ屋との出来事です。

過去何度か、客人が来たときに出前を頼んだことがあるのです が、この店は電話番号を言うと名前、マンションの部屋番号が 登録されているので変わった名前の私がいちいち名前の説明 をしなくても直ぐオーダーが出来ます。そこは大変良い仕組み です。

ある日、家内がうなぎの出前を頼みました。子供は小さいので うなぎは食べれず、鳥のそぼろ弁当を頼みました。そこでの電話 に出た女性店員との会話です。

うなぎ屋「はいXXXです。ありがとうございます。初めてでないのでしたら 電話番号を教えてください。」
家内   「。。。。。。」
うなぎ屋「はい。XXXさんですね。住所はXXXですね。毎度ありがとうござい ます。ご注文は。。」
家内   「。。。。。。」
うなぎ屋「うな重二つ、肝吸い付きとそぼろ弁当一つですね。」
家内   「。。。。。。」
うなぎ屋「はい。ありがとうございました。」

ここまでは普通の会話です。次が問題です。

うなぎ屋「そういえば。以前だし巻きたまごをお頼みになりましたね。 今回はいかが致しましょうか。。」
家内はだし巻きたまごを頼むつもりはなかったので頼みませんでしたが、 電話を置いた後、非常に不愉快だと言っています。
「以前何を頼んだかいちいち記録しているなんて。。。。何か 気持ち悪いわね。。」

5年前くらいから、CRMとかいう言葉がマーケティングの主流と なり、何でもかんでも売るほうは消費者のデータを知りたがります。 過去、このような商品を買ったから、恐らく今度も同じようなものを 欲しがるだろう。このお客の年齢と家族構成とか、所得、住所 ライフスタイルを知れば大体の消費者属性は捕捉できると信じて、 その人向けの販促パンフレットをDMで、またメールでどしどし送って きます。

CRMとかいうと直ぐ標準的なアンケートに則って、勝手にこの 消費者の趣味だとかをコンピューターで識別する。それはそれで 否定はしませんが、時々悲しい話が聞こえてきます。
不幸にして自分の愛する子供を失った場合です。それも 幼少期に。生きていればそろそろあの子も小学校へ入学 してる筈なのにと思い出さずにはいられない複雑な気持ちで亡き子 の姿に思いを馳せていると、ちゃんとメールボックスには

「XXちゃん入学おめでとうございます。小学生こそが人生で一番 大切な時期。XXの学習教材を買ってXXX塾へ行きま しょう。今会員になったら年会費無料でカードを発行しXX割引 XX特典付き 。。。」
あるいは
「大切なお子様のことです。今のうちに学資保険は。。」

これが延々と中学入学、高校入学、大学入学、そして成人式 と続くのです。知らない人からのDMでどれだけの人が悲しみを 味わうこととなるのか、そんなことはお構いなしに企業はDMを 送り続けます。既に他界してこの世にいない人の人数も会員数として 公表して企業価値を高めている場合もあります。個人データの 流出事件とか大きく報道されていますが、我が家に送ってくる 企業のDMは誰がどうやって調べたのか、誰がデータを漏洩したのか 推測することすら出来ないくらいに全て企業には筒抜けです。 どこかの一つの企業が漏洩したら住所を変えない限りもう手遅れ です。送ってくれるなと手紙を送っても恐らく送り続けるでしょう。
CRM、顧客管理。。必要なことはわかりますが、さながらロボット が暴走して人間が思いもしなかった世界を作り上げているように も思います。またその効果を単純に信じている企業も愚かです。

人間は多様な面を持っております。10通りでも100通りだけで もありません。精神が成長したり、また、何事も上手くいかず 悲しみに打ちひしがられれば別の面も出ます。ちょっとした現世の 利益を手に入れれば急に善人になったり、はたまた逆に醜くなったりします。

何通り。。?自分自身でも分からないから、血液型とか、星座とか 生年月日とか、出身地とかで標準的な自分を知りたがります。だから 占い師が存在するのです。

何通り。。?恐らく天文学的な数字でしょう。

私のことを言えば、「お年寄りに席を譲った。自分って何て人に親切で 素晴らしいやつなんだ」と自惚れることもあれば、「あいつのあの態度が 気に入らない。一度地獄に落としてやろうか。。」と恐ろしいほど醜い 自分もあり、何れも同じ私です。 パチンコも好きだし、映画も好きだし、散歩も好きです。 機会があれば釣りでもやりたいと思ったりしています。退職したら居酒屋でも 開こうか、いや、大学時代に大学嫌いだった自分を反省して謙虚に 大学で学問でもやろうかとか。。若い連中と一緒にいれば年も取らないし。。 とか。

このような複雑さは私だけではなく全ての人間に共通するものですが、その 複雑さを無機質なデータでは捕捉しきれないことは明白です。

人との長い付き合いを通じて相手が本当に何を欲しているのかそれを 知るのです。人に善意を施すにもデリカシーがなければならないのと同じく 人にモノを売るときも同じくデリカシーが必要だと思います。
データは必要ですが、それをどのように管理するのではなく、どのように 活かすのか。。全て人間の力というか感性でしか出来ないことだと思います。 その感性ですが、これは右脳の世界なので標準化は無理です。 行き過ぎたデータ主義、CRMの暴走。。限界に来ています。

さて、件のうなぎ屋です。

3ヶ月に一度しかお店に行きませんがちゃんと顔を覚えてくれています。 名前は聞かれませんので教えていません。居酒屋ではないので 馴れ馴れしさもありません。押し付けもしません。

でも食べ終わりレジで支払いをしていると、我が子にいつも素敵な キャンディーのプレゼントを下さります。小さなことです。

この街に相応しい素敵な店です。 このようなサービスがあれば、行き過ぎたデータ主義やCRMがなくとも、それで良いのです。
執筆者

未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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