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未知倶楽部コラム

茂木町に見た‘官と民’の姿 〜「道の駅もてぎ」を訪れて〜

2007年02月19日

官と民との関係について最近とかく、民で出来ることは民でやればよいという言葉が当たり前のように受け止めらています。それが高じて『民の方が官より上→官は駄目→全て民へ』、という図式を安易に描こうという風潮すらあります。

果たして本当に全て民が官より上で、全てを民に任せれば良いのか?

地域を見つめている私は決してそうとは思いません。

未知倶楽部は言うまでもなく民間企業として運営しております。民間であるが故の長所を信じて進めておりますが、決して我々が官より上だとは思っていません。とりわけ地域行政での成功例に接すると、果たして我々民間の力でここまで出来るのか、つまり、民間企業の単なる商業主義、利益を追求する姿勢だけで地域経済を良くする事が出来たのか、また今後出来るのか、自問自答する次第です。

過日(2月16日)栃木県茂木町にある「道の駅もてぎ」を訪れました。迎えてくださったのは、茂木町商工観光課の大坪様です。同道の駅の昨年度の売上は5.5億円、毎年順調に増加しております。この道の駅で販売されている特徴的な商品は、かぼちゃドーナッツ、おとめミルク(銘柄いちご「とちおとめ」のアイスクリーム)と美土里堆肥です。とりわけ、かぼちゃドーナッツは絶品。東京で手に入らないのが残念です。

とちおとめアイス(道の駅もてぎ)
名物とちおとめアイス。目の前でイチゴをつぶして、
アイスクリームと混ぜて提供されます。
とちおとめ商品(道の駅もてぎ)
栃木県内の道の駅が共同で展開している
「とちおとめ」商品。

さて、茂木町の話です。同町では20年前からオーナー制度に取り組んでおります。そば、梅、しいたけ、棚田、じゃがいも等、町内12の地区がそれぞれのテーマでオーナー制度を設けて、県内外の人たちとの生産の苦労を通じて心のふれあいを実践しています。全国的にも最も成功している例のひとつです。「人と環境に優しい農業」を理念として、その文化や歴史を保存する取り組みは、代々の町長と町民の地域に対する思いを体現しているものです。町内を19の地区が、地区単位での取り組み課題を決め、それらを町の総合計画としてまとめています。何が実現出来ているのかが客観的な手法で細かく点数化され、将来の課題も公表されています。

道の駅もてぎ外観
大坪様より、「道の駅もてぎ」の古口駅長(現茂木町長)が下野新聞に寄稿されている記事のコピーを頂きました。その中で、同駅長は「一過性のイベントではなくビジネスの域まで高める必要性」と「農村が都会に奉仕するのではなく、安全でおいしい食物、美しい里山の風景、伝統文化の感動、そしておもてなしの精神を提供する対価として適正価格の適正利潤を追求し経済の活性化と農村文化の保存を行うことの必要性」を訴えております。

古口駅長に対して僭越至極ではありますが、私も全く同じ考えを持っています。同駅長がおっしゃっていることは地域資源を見直し、再評価し、そして商業的価値へと高めようということだと思います。地域文化を守りたいと思っている人は全国に沢山います。その一方で、守るための有効な仕組み(経済的な仕組み)を設計できないために滅びつつある村があり、村を捨ててしまう人たちも多いのです。都会人に媚びるアミューズメント施設を作り、都会人に媚びる観光の姿を追求することが失敗であったことは既に証明済みです。本当に優れた資源は何か、それを見つめ、そしてそれを元に価値を高めることは忍耐が要ります。

茂木町のことを考えながら、愛媛県の内子町のことを思い浮かべます。あの素晴らしい町並みを保存するために内子町の人たちが長年傾けてきた努力に思いを馳せます。内子町においても、一過性の富を選ぼうとする意見もあったことでしょう。しかし聡明な人たちのお陰で、そちらを選ばなかったため、結果的に今や内子町は愛媛県内屈指の観光地となっております。勇気、英断、そして長期的ビジョン。これが勝因です。

さて、地域経済にとって有益な仕組みを作ることですが、これは一般的な民間企業では殆ど不可能な技です。民間企業はそもそも地域経済を総合的にどうするかを考える暇も与えられず、当面の収益を確保することが求められます。民間企業が地域の経済と関わると、すぐにモノを売りたくなる、すぐに有用な人とそうでない人を識別し、入れ替える。つまり「すぐ」というキーワードで動きます。スピード感は大切なことですが、熟慮が欠けると地域住民に子々孫々大きなダメージを与えかねません。ここが民間の弱点です。

とどのつまり、深い文化に根ざした地域経済をどうするか。これは地域の行政がまずじっくりと考えなければいけませんし、また彼らでしか考えられないと思います。

民に出来ることと、官でなければできないこと。官に出来ることと、民でなければできないこと。これは何なのかについて冷静な議論が必要です。国及び社会のあり方は官だけが責任を負うものではありません。民も積極的に関わりあうこと、いわば昔の「道普請」のような考え方、これこそが今後の地域経済の活性化に求められる姿だと思っております。

我々未知倶楽部は行政の方を含む地域の方々との対話の席で必ず、‘地域主体主義’を唱えております。我々から見た地域の姿はあくまでも外部からの参考視点に過ぎません。地域の人たち自身がどうしたいのか、それに対して我々が何を支援できるのか、この軸を失うことなく共に進めて行きたいと思っております。
執筆者

未知倶楽部室 室長 賦勺尚樹

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