HOME > 道の駅ビジネスレポート > 道の駅を中心とした村の女性たちによる機能的村おこし

ビジネスレポート

道の駅を中心とした村の女性たちによる機能的村おこし

2010年12月13日

道の駅くんま水車の里(静岡県)


道の駅を中心とした村の女性たちによる機能的村おこし
川面を眺めながら食べるおそばの味も最高なテラス席。
くんまと聞いた時、どんな字を書くのかと思った。訓間? 薫真? 土地の名前であろうが、その漢字の見当がつかなかったが、答えは「熊」。この土地では「くんま」と読むらしい。昭和31年までは熊村、その後二俣町熊となり、33年に天竜市と合併。そして平成18年に浜松市に組み込まれ、天竜区熊となったそうだ。何れにしても、「熊」が「くんま」とは愛嬌のある読み方である。

 天竜川の上流、阿多古川の清らかな流れに沿って建てられたこの道の駅は、周辺の深山の景色にとけ込んだ木造の建物で、道の駅に時々ある妙に目立つデザインとは対照的な落ち着いた佇まいが好ましい。駐車場の左側にそば処「熊かあさんの店」、正面に物産館「ぶらっと」がある。2階建ての物産館は2階が入り口で下階は事務所と休憩所になっており、そこからはきれいに護岸整備された阿多古川の岸辺に出ることができる。働いているのは全て女性。若い方から年配の女性まで、てきぱきと動く姿が気持ちよい。

 さっそく事務所を訪ねて、駅長の金田三和子さんに話を聞いた。

収益事業を非営利事業に役立てる


 施設としての設立は昭和にさかのぼる。昭和62年に農産物加工と販売を目的として地元女性グループの運営による「くんま水車の里」がオープンしたのが始まりだ。翌年にはレストラン、物産館も加わり、グループはこの施設を中心に活発な活動を展開。平成7年4月に道の駅の認定もうけている。そして平成12年にNPO「夢未来くんま」として県より認証を受け、さらにさまざまな試みを広げている。熊地区には270世帯、約800人が住んでいるが(平成19年の統計)、成年男女のほぼ全員がこのNPOのメンバーになっているそうだ。
 この道の駅の特徴は、このNPOの活動拠点となっていることで、この熊地域の「村おこし」を盛り上げるための施策がある意味ここに集約されている。組織図を見ると、「夢未来くんま」は、「水車部」、「しあわせ部」、「いきがい部」、「ふるさと部」の大きく4つに分かれて活動を行っているが、このうちの「水車部」がこの道の駅に当り、唯一の収益事業となっている。「しあわせ部」は、地域の高齢者への給食サービスや輸送サービス、「いきがい部」は町づくりや交流推進、「ふるさと部」は環境保全とそれにつながる児童教育活動などを主に行っている。それぞれの活動の内容はここでは割愛するが、いずれにせよそうした非営利活動を道の駅の事業収益が支える形になっているのだ。もちろん高収益という訳ではなく非営利事業部分は多分に行政からの補助金に頼る面もあるが、なんといってもこの道の駅「くんま水車の里」が立派に収益を上げていることが、地域の活性化につながっていると言える。ここで働く女性たちのやる気が、そのまま他の非営利事業にも元気を与えているのだろう。

経験から作り出された理想的な事業モデル


収益が出ているのは、もちろん売れているということと、もう一つは収益構造がちゃんと出来ているからであろう。
 通りに面した「かあさんの店」は挽きたて、打ち立てのそばが自慢だ。おすすめのそばは地元産マイタケの天ぷらがつくてんぷらそば。そばはいわゆる田舎そばだが、なかなかの出来。それに木造のほっとするような店内の雰囲気と、そこで働くおばちゃんたちの元気とやさしさが、そばの味をぐっとあげてくれる。駅長の金田さんも店に出て、明るく接客に務めていた。実際かなりの人気店で、相当な山の中にも関わらず、また訪問当日はちょっと雨模様の天気だったが、昼時はほぼいっぱいでさらに客が途切れない。ここを目指してわざわざやってくる人も多いという。
 物産館「ぶらっと」では、徹底して地元のものを販売している。新鮮な野菜から味噌などの加工食品、それに元々林業が盛んな土地柄か、木工製品や竹製品も多くある。入り口の横には、そばと並んでこの道の駅の売りである五平餅売り場があり、香ばしいにおいが食欲をそそる。感心したのは、それぞれの商品が素朴ではあるが、そうした面も含めてパッケージや棚作り、売り方がうまく商品力があることだ。ただ一生懸命だけではない、デザイン力と企画力が感じられる。このあたりがこの道の駅が成功している理由であろう。

 それともうひとつ大きい要素は、この道の駅の主力商品である、そば、味噌、五平餅、こんにゃく、まんじゅう等々は、全て川の反対側にある平屋の小さな「工場」で作られていることだ。作っているのももちろん地元のおばちゃんたち。小さくともちゃんとそば工場、味噌工場、餅とお菓子類工場に分かれていて、それぞれの持ち場でスタッフがせっせと働いている。
 言ってみれば工場直販な訳で、これなら利益率も良い。田舎のおばちゃんと侮ってはいけない。非常に立派なビジネスセンスである。広報面でもブログは定期的にアップされているし、イベントも頻繁に行っている。家族での川遊び体験、変わったところではアルプスホルンの講習+発表会など、くんまのファン作りに貢献する催しも多い。つまり総合的な事業プランが出来ているのだ。そしてこうした事業収益が、他の非営利事業の実施につながる。これは道の駅が本質的に期待される公共性と事業性をバランスよく併せ持った理想的な形ではないだろうか。人口800人の地域が道の駅を利用して活性化を図るお手本と言えよう。

 最後に一点。こうした道の駅を知るといつも思うのは、道の駅全体を横串で刺すネットワークの必要性と、そこから生まれるブランド価値の向上だ。くんまのような小さいがやる気と実力さらに理念も備えた道の駅にとっては、そうしたブランド価値を伴ったネットワークの有用性は非常に大きいはずだ。道の駅という類まれなポテンシャルを持つビジネスモデルをそれぞれの道の駅が成功に導くために、未知倶楽部が担うべき大きな責任を改めて自覚した。
執筆者

未知倶楽部事務局

ページTOP